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委託運用グループは委託先ファンドの評価・管理業務およびリバランス(資産配分の調整)業務を担当する部門です。ポートフォリオマネジメントグループはリバランス戦略の立案およびインハウス運用を担当する部門であり、GPIFが保有する資産構成の割合を適切に保つことを担っています。
大嶋貴裕/投資運用部の委託運用グループおよびポートフォリオマネジメントグループを兼務。委託運用グループではリバランス業務で資金配分回収スケジュールの策定を、ポートフォリオマネジメントグループではインハウス運用で先物の執行などを、それぞれ主に担当。年金積立金の運用における不要なリスクを抑制し、安定したリターンを確保するための業務に従事。
長期的な運用においては、短期的な市場の動向により資産構成割合を変更するよりも、基本となる割合を決めて長期間維持する方が、効率的で良い結果をもたらすとされています。GPIFでは現在、国内債券25%、外国債券25%、国内株式25%、外国株式25%の基本ポートフォリオを設定し、それに沿って100以上のファンドへ運用を委託しています。株式や債券の相場は絶えず変動するので、ポートフォリオの資産構成割合は時間の経過とともに基本ポートフォリオから乖離していきます。そこで、相対的に値上がりした資産を売却し、相対的に値下がりした資産を購入することで基本ポートフォリオ通りの資産構成割合に戻す「リバランス」という作業が必要になるのです。
リバランスにあたっては、まずポートフォリオマネジメントグループが基本ポートフォリオからの乖離に基づきリバランス戦略を立案し、投資委員会に諮って売却する資産と購入する資産を決定します。次に委託運用グループがその決定に基づき、実際に売買を行う委託先ファンドおよび売買スケジュールの決定を行います。
リバランスを投資運用部内のグループで分担して行っているのは、運用規模が大きく、一つのグループですべての業務を行うことが難しいことに加えて、リバランスの公平性や客観性を確保することが理由です。
もう一つの主要な業務が、先物のインハウス(自家)運用です。GPIFは制度上、株式の運用を外部の運用会社に委託しています。しかし、外部運用のみではGPIFが意思決定を行ってから委託先が実際に売買するまでにタイムラグが生じ、当初予定していた価格で取引ができず、予期しない損益が発生する可能性があります。そのリスクを抑制するために、先物についてはインハウス(自家)運用を行っているのです。
※画像出典:2023年度の運用状況>業務概況書>運用受託機関別運用資産額(2023年度末時価総額)
インハウス運用における先物の執行においては、GPIFの投資委員会で決定した先物執行方針をもとに、執行のタイミングを分散させ、マーケットインパクトを与えないよう慎重に判断して執行しています。GPIFは売買の規模が大きいので、無理に執行するとマーケットの価格が不利な方向に変動する可能性があります。
そうしたインパクトは、リバランスコストの上昇などの形でGPIFにも不利益をもたらすため、マーケットインパクトの抑制に常に気を配っています。
前職の銀行ではファンドマネージャーとして、GPIFから委託されたファンドの運用にも携わった経験があります。当時からGPIFはESG投資やパッシブファンドにおける超過収益獲得などの新しい取り組みを行っていて、その先進性に魅力を感じていました。また、年金積立金の運用という社会的に意義のある業務にもかかわりたいと思ったことが、入職の理由です。
ファンドの運用に携わった経験や知識は現在の業務に役立っている部分もありますが、GPIFが運用している約200兆円という規模ならではの難しさもあり、日々勉強中の部分もありますね。マーケットは絶えず変化しアップデートしているので、常に市場動向を把握して後れを取らないように知識を高めていくことが欠かせません。
GPIFには、銀行や証券会社などの金融業界以外にも、商社や不動産会社、シンクタンクや官公庁など、様々な業界の出身者が集まっています。それぞれマーケットや投資に関して専門的な知識や経験を持ち、GPIFに多様な知見を提供しています。
また、GPIFでは部門間のコミュニケーションも活発で、別部署のスタッフと協働することもあります。金融業界育ちの私にとって、知らない世界の話を聞くことができるのは新鮮です。GPIFで働くことにより、見る角度によって、ものは違って見えることや、思いもよらない視点が存在することにも気づかされました。
今後も様々な分野の専門家が集まり、GPIFの知見はより幅広いものになることが予想されます。そうした多くの専門家や知見をつなぎ合わせ、より広い視野から年金積立金の運用を見ることができるゼネラリストのような人材が、これからのGPIFの取り組みには重要な役割を果たすのではないかと思います。
リバランス案の作成と執行にあたっては、冷静に状況を判断し、慎重に実行することが大切です。また、マーケットインパクトを回避するために、複数のリバランスの手法を組み合わせて、1回あたりの取引額を小さくしたり、先物取引を執行するタイミングを分散したりすることで、執行をできるだけ目立たなくすることを心がけています。
※GPIF植田CIOに聞いてみよう それって、GPIFあるある?>GPIFによる国内株式の買い越し・売り越し額より作成
このように注意深く取り組んでいるだけに、リバランス案が執行されて、ポートフォリオの資産構成割合を想定通りに修正できたり、先物の取引でリターンの確保や、リスクの調整ができたりしたときの達成感には大きなものがあります。また、自分で運用しているインハウスの1ファンドのみで超過収益を狙うのではなく、委託先も含めた年金積立金の運用全体で超過収益を最大化する「全体最適」を常に意識しています。
貯金を預けたり、自動車を買ったりするとき、私たちは銀行や自動車会社を選ぶことができます。しかし、公的年金の運用先については自分で選ぶことができません。GPIFが運用しているのは選択の余地なく拠出いただいた大切な資金であるということを忘れてはならないと肝に銘じています。国民の皆様の年金積立金を預かり、50年、100年という長期のスパンで運用することに、責任や使命を感じながら年金積立金の運用業務に取り組みたいと考えています。
年金積立金を確実に運用することは、日本の年金財政の安定化にも寄与します。GPIFの公共性が高く規模の大きい業務に携わるプレッシャーと重みを感じながら、リバランス業務と、インハウス運用における先物の執行に臨んでいます。