ここから本文です
GPIFのオルタナティブ投資部は、上場株式や債券といった伝統的な投資資産に属さない、オルタナティブ(代替的)な資産への投資を担当している部署です。 GPIFではインフラストラクチャー、プライベート・エクイティ、不動産をオルタナティブ投資の運用の対象としており、投資資産の時価総額は、2024年3月末現在で3兆6,972億円となります。
田中麻理/オルタナティブ投資部インフラストラクチャー投資グループ所属。運用中のファンド・オブ・ファンズ(複数のファンドを組み入れるファンド)等の管理およびモニタリング、今後の投資に関する戦略立案などを担当。
私が担当しているインフラストラクチャー(インフラ)分野では、社会・経済活動に不可欠な資産であるインフラに投資を行います。
GPIFが投資しているインフラ資産は、太陽光や風力などの再生可能エネルギーを使った発電施設・事業のほか、データセンターや通信タワーなど通信事業関連、さらには送配電施設、空港、道路など多岐に渡ります。その投資資産の時価総額は、1.4兆円を超えるまでになっています。
インフラへの投資を通じて安定した収益を上げ、年金積立金の運用に役立てていくことが、仕事の重要なミッションです。
投資は外部の運用会社(ファンドマネージャー)が組成するファンドを通じて行っていますが、最終的な投資先は、米英やヨーロッパ各国、オーストラリアなどの海外が中心で、国内のものはおよそ4%です。そのため、欧米の運用会社と関わることが多く、英語力は業務遂行に欠かせないものになっています。
※画像出典:オルタナティブ資産の運用とは/インフラ/運用状況
GPIFがオルタナティブ投資を始めたのは2013年度で、株や債券に比べれば新しい資産なので、ゼロから歴史をつくっている最中といえます。加えてGPIFの資産規模を考えれば、手本になる前例が少ないことから、 何ごとにおいても自分の頭で考え、アイデアを出すことが重要です。前例のない仕事に取り組める点にやりがいを感じていますね。
※画像出典:オルタナティブ資産の運用とは/概要/投資開始来のオルタナティブ資産の時価推移
日本国民の大切な年金積立金を運用するのですから、仕事に対しては慎重をモットーに臨んでいます。投資先の企業・プロジェクトの運営が当初の想定通りに行われているかを定期的にモニタリングしていますが、想定外のリスクが顕在化することはあります。例えば空港は一般的にインフラの代表的な投資セクターの一例で、GPIFの投資先にも含まれていますが、2019年以前に全世界的なパンデミックの影響を予測している人はいませんでした。リスクが顕在化した際には、その影響範囲を自分で予想しつつ、業界内でも複数のソースから集めた情報の中で共通する点を洗い出す等して、情報の確度を高めることが欠かせません。
オルタナティブ投資で重要な点は、インフラに関する専門的な知識や知見はもちろん、インフラ業界や世界の社会・経済の動向を踏まえて、本当に良い事業や投資先を見極められる"幅広い視野"です。また、投資は長期的視野で取り組む必要があるので、常に情報を収集して俯瞰的な視点から考えられる"奥行きのある視野"も重要だと考えています。
大学と大学院では都市計画を専攻しており、都市に欠かせないインフラにも興味を持っていました。前職のコンサルティング会社では様々なインフラのプロジェクトにアドバイザーとして関わりましたが、最終的な判断や意思決定は顧客が行っていたため、もう少し違う立場でインフラに関わりたいと思っていたときに出会ったのがGPIFでした。
インフラのプロジェクトは多額の費用を要することから投資のニーズが高いのですが、その資金の流れの中でもっとも上流に位置するのが機関投資家です。その中でも"世界最大の機関投資家"と呼ばれているGPIFで、新たなチャレンジを始めたいと考えました。
※画像出典:オルタナティブ資産の運用とは/概要/(例)インフラストラクチャーの運用スキームのイメージ
GPIFのミッションは「国民の皆様からお預かりした大切な年金積立金を長期にわたって安定的に運用する」と非常に明快です。社会的に意義のある仕事に携わっていると明確に感じることができ、仕事を進める上で疑問や迷いが生じる余地があまりありません。また投資規模が大きいので外部から寄せられる情報も多く、各国の運用会社との面談やコミュニケーションは、日常業務の一環として頻繁に行っています。私自身が海外へ出張することもあります。
豊富な情報から得られる知見や、面談などによって構築できる関係は、スキルアップや今後のキャリアにつながると考えています。コロナ禍によってオンライン面談が増えましたが、現場や対面だからこそ得られる情報もあるので、そうした機会がより増えてほしいですね。
GPIFは約200兆円という大きな資産を運用しているわりにはスタッフが160名程度とコンパクトな組織です。前職の企業は国内だけでも1000名を超える社員がいたので、何かを相談したいときは担当部署と担当者を調べることから始める必要がありました。GPIFでは、ほとんどのスタッフが一つのフロアで勤務しているのでどこに誰がいるのか見つけやすく、したがって相談するのも簡単です。
また、経営陣と現場との距離が近いのもGPIFの特徴の一つだと思います。オルタナティブ投資部の部長のすぐ上が役員なので階層が少なく、現場からの提案が届きやすい風通しの良い職場環境だと言えます。
前述のとおり、オルタナティブ投資は参考となる前例が少ないので自分自身でゼロから考えることが求められますが、全てを自分だけで解決するのではなく、他部署と協力することも必要です。たとえば、何か新しいプロジェクトに取り組む際には、組織内の専門家の知見を取り入れたり、それを基に情報分析の精度を上げたりしてリスクにできる限り備え、安定的な年金積立金の運用を目指さなければなりません。
また、オルタナティブ投資は株式や債券といった伝統的な投資と比べると、運用方法をはじめ異なる点が多いため、両者の融合が大きな課題になっています。そのためには組織内の協働が欠かせず、GPIF全体のチームワークといったものがますます重要になってきます。これからのGPIFには、自分の考えをしっかりと持ちつつ、他人の意見も柔軟に取り入れられるような人材が必要だと考えています。