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GPIF JOB INTRODUCTION GPIFのお仕事紹介

職員インタビュー  GPIF staff interview

ESG・スチュワードシップ推進部の仕事

長期的な投資収益の拡大を図る観点から、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)を考慮するESG投資や、投資先の持続的成長を促すスチュワードシップ活動を推進する部署です。GPIFは制度上、株式に直接投資できないため、運用を委託する運用会社に対し、投資先企業との適切なエンゲージメント(長期的な企業価値の向上につながる建設的な対話)を求めることで、スチュワードシップ責任を果たしています。

浅野雄太/ESG・スチュワードシップ推進部ESG・スチュワードシップ推進課所属。入職後は資金の運用を委託する運用会社のスチュワードシップ活動促進・評価や、活動の実態を把握するための各種アンケート調査実施などに取り組む。2024年5月にGPIFが公表した「エンゲージメントの効果検証」プロジェクトでは、チームの中心的な役割を担った。

スチュワードシップ活動の大きな意義

スチュワードシップ活動とは、機関投資家が投資先企業と「目的を持った建設的な対話」(エンゲージメント)などを行うことによって、投資先企業の企業価値向上につなげ、長期的な投資リターンの獲得を目指すものです。GPIFは「専ら被保険者の利益のために」年金積立金を運用していることから、長期的な投資収益拡大につながるスチュワードシップ活動は重要な取り組みです。

前職では私自身が実際にエンゲージメントや議決権行使に関わっていましたが、GPIFでは制度上の制約から、投資先企業に直接スチュワードシップ活動を行うことは認められていません。しかし、GPIFには、株式の運用を委託する運用会社が国内外合わせて数十社あり、それらの運用会社が行うスチュワードシップ活動を後押しすることで、大きな効果を得ることが可能だと考えています。ESG・スチュワードシップ推進部では、運用会社のスチュワードシップ活動を適切に評価するとともに、上場企業を対象にしたアンケートなどで運用会社からの働きかけの実態を把握することなどを通じて、長期的な企業価値向上、ひいては投資リターンの拡大を目指しています。

※画像出典:ESG・スチュワードシップ>スチュワードシップ活動>動画「10分でわかるGPIF:GPIFのスチュワードシップ活動(3分39秒ごろ)」

GPIFは運用資産が大きく、世界中の資本市場の資産に投資する「ユニバーサルオーナー」であると同時に、長期的な観点から設計された年金制度の一端を担う長期投資家です。GPIFのスチュワードシップ活動が、長期的に投資リターンの向上につながれば、社会的に大きな意義と役割があると考えています。

「エンゲージメントの効果検証」とは

エンゲージメントに代表されるスチュワードシップ活動が投資収益の拡大に結実するまでには、長い期間が必要です。その前段階として、それが企業の行動変容を含め、どのような効果を生んだのか、委託先の運用会社によるエンゲージメントのデータも蓄積されてきていることから、2023年度に定量的な分析・検証を行い、2024年5月に報告書を公表しました。

GPIFが日本株の運用を委託する運用会社が2017年以降に実施した2万件以上のエンゲージメントのデータを基に、コンサルタント会社やアカデミアの方とともに統計的因果推論の手法を用いて分析しました。その結果をさらにブラッシュアップし、公表にこぎつけたものです。

※画像出典:ESG・スチュワードシップ>効果測定プロジェクトの概要と分析結果>各プロジェクトの概要と分析結果>エンゲージメントの効果検証>報告書

本プロジェクトの作業を進める上でもっとも時間をかけたことは、実は分析に使うデータを整備・用意することでした。エンゲージメントデータについては、これまでに運用会社から提出のあったものを活用しましたが、分析に使うためにはかなりの加工が必要です。例えば、エンゲージメント内容は自由記述での記載であるため、分析する上ではそれぞれの内容を整理・分類する必要がありました。また、1回のエンゲージメント記録に複数の内容(例:気候変動と取締役会構成)が記載されていることもあり、これも切り分けて整理する必要がありました。どのようなテーマ分類にするか、部内でコンセンサスを形成した上で作業を行ったわけですが、そもそも件数自体が2万件以上あり、極めて少数のメンバーで作業を実施したため、非常に大変だったことを覚えています。

また、本プロジェクトで重視したことは、エンゲージメントと企業価値向上の「因果」も含めて推定することでした。その場合、ある企業がエンゲージメントをした場合としなかった場合に分けて企業価値指標などの推移を比較することができれば良いのですが、ひとつの企業が両方の状況に同時になることはあり得ないので、似通った規模や業種の企業同士で比較する必要があります。一方、GPIFでは運用会社を通じて大半の上場企業に投資しており、運用機関はほとんどの大手企業とエンゲージメントを行っていますので、エンゲージメントをしていない企業を見つけること自体が困難でした。そこで、気候変動について対話したかどうかといったように、エンゲージメントのテーマ分類ごとに、エンゲージメントを実施した企業としていない企業で比較するなどして、ようやく適切に分析することができました。そもそもエンゲージメント自体が「目的を持った建設的な対話」であることから、すべてごちゃまぜで分析するよりもエンゲージメントテーマ別での分析の方が、効果を測定するためのKPIを正しく設定できるという意味でも良かったと思います。

このように作業には苦労も少なくなかったので、エンゲージメントの効果が実際にあるという分析結果が示されたことには、非常に感慨深いものがありました。エンゲージメントの効果をこれほど大規模かつ定量的にとらえた調査は世界的にも例がないこともあって、公表時には複数の経済系メディアでも取り上げられました。

必要なのは制度の制約の中でのチャレンジ

ESG・スチュワードシップ推進部には、いわゆるルーティンワークと呼ばれるような業務はなく、日々の勤務に決まったスケジュールはありません。運用会社の過去1年間のスチュワードシップ活動を評価する時期は忙しく、早朝や夜に海外の運用会社とミーティングを行うことも少なくありません。海外出張も年に2回程度はあります。また、GPIFのESGに関する取り組みを詳細な分析も加えて紹介している「ESG活動報告」の発行に向けて、当該業務に従事するメンバーは春から夏にかけて非常に忙しくなります。加えて、「エンゲージメントの効果検証」プロジェクトを進めていた時には1日の勤務時間のほとんどを割いていた時期もありました。こうした特定の期間を除くと、9時から19時が平均的な勤務時間と言えそうです。

一日の業務の流れ(イメージ)
  • 9:00
    メールチェック
  • 10:00
    国内運用会社とのミーティング
  • 11:45
    昼食
  • 12:45
    運用会社のスチュワードシップ活動に関するデータや資料確認
  • 14:00
    効果検証プロジェクトに関するデータ確認
  • 17:00
    エンゲージメントの効果検証に関するミーティング
  • 18:00
    事務作業
  • 18:30
    業務終了

業務を進める上で大前提となるのは、GPIFが行う年金積立金の運用には制度上の制約があるということです。たとえば、投資先企業の株式に直接投資して、経営に影響を与えることは認められていません。よって、投資先企業にスチュワードシップ活動を直接行うこともできないわけです。その一方で、機関投資家として、長期的な収益拡大のために投資先企業の企業価値向上を促す責務もあります。制約の範囲内で最大限のチャレンジをすることが求められているのです。

育児を助けるのは「制度」以上に「周囲の理解」

プライベートでは2023年に長女が生まれ、出産後の妻のサポートをしたいと思って上司に相談したところ、「エンゲージメントの効果検証プロジェクト」で忙しい時期だったにもかかわらず、逆に妻を助けるよう指示されました。現在は保育園に娘を送り届けるのは私の担当で、家事の一部も受け持っています。

一部とはいえ育児や家事と仕事とを両立する上で、非常に重宝しているのがテレワーク制度です。子どもを持ってわかったのが、急な発熱などで保育園に迎えに行ったり、病院に連れて行ったりするケースが、思った以上に多いということです。こうした用事にはテレワークを適宜活用することで通勤時間分を対処に充て、仕事の時間も確保することができます。GPIFのテレワーク制度は月に8日以内の利用が基本ですが、育児中などの事情に応じて日数を増やすことも可能です。

このようにテレワーク制度には助けられていますが、それ以上に感謝しているのが、上司をはじめとした周囲の理解とサポートです。いくら立派な制度があっても、理解を得られない職場では利用することは難しいでしょう。そうした意味で、GPIFには多様な働き方を支援する制度とそれを効果的に運用する体制の両方が揃っていると感じています。

「エンゲージメントの効果検証」の高度化

「エンゲージメントの効果検証」は2万件ものエンゲージメントデータを基にしていることから、運用資産が大きく、幅広い運用会社に運用を委託しているGPIFだからこそ可能なプロジェクトだったと思います。エンゲージメントに対しては運用会社も投資先企業も大きなリソースを割いており、改めてスチュワードシップ活動の重要性を示せたことには大きな意義があったと感じています。しかし、取り組みは始まったばかりで、効果検証の高度化に向けて、様々な課題が残されています。

たとえば今回の検証は、基本的にはエンゲージメントをした場合としていない場合の比較でシンプルなものでした。次回からは、分析の切り口をもっと多様で深いものにしていく必要があるでしょう。また、エンゲージメント例も国内のものだけを収集、分析しましたが、将来的には海外の分析にも着手したいと考えています。またこれらの取り組みは、海外にも幅広く情報発信していくことを検討しています。データの整理・分析に時間がかかったので、その作業の効率化も進めなければなりません。スチュワードシップ活動の重要性を、運用会社や投資先企業にもっと知っていただき、活動の深化につなげるために、「エンゲージメントの効果検証」の高度化に取り組みます。また、私が所属する部署では、GPIFのこれまでのESG・スチュワードシップ活動を定量的に検証するための別のプロジェクトも複数走っており、こちらも皆で頑張っているところです。

スチュワードシップ活動に必要なものは

ESG・スチュワードシップ活動は運用業界の中では比較的新しく、変化が大きい分野です。その変化に対応していくには、好奇心を持って積極的に取り組む姿勢が大切ですし、運用の前提となるファイナンスの知識も必要です。また、海外の運用会社などとやりとりする機会も多いので、英語のスキルもあったほうが良いと思います。さらに、統計やプログラミングなどに関する知見があると、「エンゲージメントの効果検証」をはじめとする定量的な分析プロジェクトの仕事に役立つはずです。

私自身これらすべてのスキルを持っているという訳ではありませんので、これからも自分自身を磨いていく必要があると感じています。また、日本の年金制度の一端を担っているという責任感を持って、GPIFの投資原則にも明記されている「被保険者の利益のために長期的な投資収益の拡大を図る観点から、投資先及び市場全体の持続的成長を促す」というスチュワードシップ活動の目的をブレることなく追求したいと考えています。

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